In The Mountains Photography by Yusuke Abe

「山に登ってみたい」――そんな気持ちが湧き上がる時、人それぞれ、色々な理由あるだろう。山頂に立つ達成感はもちろんだけれど、植物を観察したり、写真を撮影したり、山小屋でゆっくり過ごしたり。山の楽しみ方は人の数だけあるはず。
今回は国内外の山を撮影する写真家の阿部裕介さんが秋の北八ヶ岳へ。ゲストに写真が趣味というモデルのモーガン蔵人さんを迎えて、1泊2日の撮影山行に出かけた。

ロープウェイの窓から山並みを見ている間に、風景は一変した。太陽は姿を隠し、周囲は一面の霧。長袖だと暑いかなと思っていたはずが、今は防寒用のダウンベストを羽織っている。標高2,237m。これまで立ったどこよりも高い場所だ。数字だけ聞くと少し怖さを感じるけれど、目の前にはちょっとした公園のような穏やかな風景が広がっている。

「坪庭」と呼ばれる場所だそうで、南北に長くのびる八ヶ岳連峰の中でも北側にあるこのエリアは、初心者でも歩きやすい山域だという。大きな樹木はなく、背の低いハイマツとゴロゴロした岩がつくる特異な景観は、これから目指す北横岳の噴火によって生まれたと聞いた。
初めて見る景色に、思わずシャッターを切る。

坪庭を抜けると、森に入る。針葉樹を中心とした森は北欧のような雰囲気で、ひんやりとした空気が心地いい。薄い霧の中を歩いていると、時々太陽の光が差し込み、幻想的な風景をつくる。歩いていると、柑橘のような爽やかな香りが漂ってくる。
同行のフォトグラファー阿部裕介さんが「これはシラビソの木の香りだよ」と教えてくれた。葉に顔を寄せてみると、その香りはいっそう強く感じられて、思わず深呼吸する。

足元には水をたっぷり含んだ苔の絨毯が広がり、さらに目を凝らすとさまざまなキノコが生えていることに気づく。写真に収めたいものが多すぎて、全然前に進まない。「急ぐ必要はないし、好きなだけ写真を撮ろうよ」と阿部さんが言う。光や植物、空気、そして香り。山の魅力は風景だけじゃない。もっと色々な山の感じ方を知りたくて、目的地だけ目指さず、ゆっくりと歩くことにした。

少し息が上がってしまうような登山道を登り切ると、パッと空が開けた。と同時に猛烈な風が吹き、立っているのもやっとなほど。北横岳の山頂は広場のようになっていて、晴れていれば八ヶ岳の山並みを一望できる。
この日は一面濃い霧に包まれていたが、それも神秘的で、初めて見る景色に興奮する。山頂で撮影した記念写真を見ると、荒涼とした雰囲気。「晴れた日はまた全然違った風景だから、また来よう」と阿部さんが言う。同じ山でも、天気や季節で、毎回違う景色に出会うことができる。それはとても、豊かなことだと思った。

北横岳を過ぎると、明らかに山の雰囲気が変わった。足元には大きな岩が連続し、時には両手を使ってよじ登らなければならない場面もある。背後から阿部さんが「大丈夫?」と気遣ってくれるが、すごく楽しい。
次の一歩をどの岩の上に置くか、その次はどうするか、一歩一歩を考えながら前に出す。普段、街を歩いている時には決して考えないことだからこそ、面白い。次第にリズムとコツを掴めてくると、より楽しい。ゆっくりと森を噛み締めるように歩いた森とは違って、こちらは岩と対話しながら歩く感じだ。気づけば標高2,382mの大岳山頂に立っていた。

大岳からの下りは正直辛かった。登りよりもさらに急な斜面に、自分の背丈と同じくらい大きな岩が転がっている。両手両足を使って、バランスを崩さないように下っていく。眼下に小さく、今日宿泊する山小屋、双子池ヒュッテが見えた時は、ほっとした。双子池ヒュッテは、その名の通り、双子のように2つある池のほとりにある山小屋だ。雄池と雌池と呼ばれる池には古くから伝わる神話があるそうで、神秘的な空気が流れている。山の気温はどんどん下がり、フリースがないと過ごせないほどになってきた。暖かい山小屋の中で、今日見た風景を思い返す。気がつくと心地いい眠気が訪れて、畳の上でぐっすりと眠っていた。

Wearing Item List

  • 2.5L hiker rain jacket

    ¥41,800 (inc. tax)

  • fleece base LS shirt

    ¥26,400 (inc. tax)

  • alpha direct vest

    ¥29,700 (inc. tax)

  • NY taffeta hiker 2way pants

    ¥30,800 (inc. tax)

  • UL backpack with Dyneema®

    ¥41,800 (inc. tax)

  • ECOPAK sholder pouch

    ¥13,200 (inc. tax)

Profile

阿部裕介

1989年東京生まれ。写真家。青山学院大学経営学部修了。大学在学中より、アジア、ヨーロッパを旅する。在学中、旅で得た情報を頼りに、ネパール大地震による被災地支援(2015年)や、女性強制労働問題「ライ麦畑に囲まれて」、パキスタンの辺境に住む人々の普遍的な生活「清く美しく、そして強く」を対象に撮影している。日本での活動としては家族写真のシリーズ「ある家族」がある。

Instagram:@abe_yusuke

モーガン蔵人

1995年4月17日生まれ29歳、東京都出身。 イギリス人の父と日本人の母を持つ。10代から国内でモデルとして活動し、パリ、ミラノのショーへ出演するなど国内外で活躍する。近年はモデルの深水光太、ローズとともにYouTubeユニット「OUR's」を結成し、映像制作や動画配信の活動も行う。

Instagram:@claude0417